ショートステイを利用された要支援1のおばあちゃん
T様は息子さん夫婦と同居される、要支援1の認定を受けられていた方でした。1ヶ月に1、2回程度、1泊から2泊のショートステイを利用される利用者様で、杖を使っての自力歩行、食事も自力摂取、もちろんトイレもご自身で行かれ(布パンツ使用)、つまりADLは日常生活を送るにはほぼ問題が無く、介助はほとんど要らない状態でした。軽度の認知症があるものの会話や意思疎通にも特に問題はなく、とても穏やかなおばあちゃんでした。
そのT様がショートステイを利用された日、私は自立された利用者様がメインのフロアで夜勤業務にあたっていましたが、その時に事故は起きました。
居室から声が!行ってみると…
定時の巡視の際、T様の居室からうめき声が聞こえたような気がしました。嫌な予感がしてすぐに駆け付けると、床にT様が倒れているではありませんか!足元の布団は半分以上ずり落ちて下敷きになっている状態でした。
状況から推察すると、トイレに行こうと起きてベッドから立ち上がる際に、半落ちになっていた布団に足がからまって転倒されたと思われます。
すぐに救急車を呼んで整形外科に搬送されたT様は、大腿骨頸部骨折と診断されました。お歳は90歳を超えており、手術をしたとしても元通り歩ける保証はありませんでした。
ご本人様とご家族につきつけられる現実
T様が息子さん夫婦とお住いの家は、階段を数十段も登らなければいけない高台にありました。おそらく、この階段の上り下りがあったからこそ足腰も鍛えられていたのではないかと思われます。ですがこの住環境は、特に歩行が困難になった際には住人をそれまでの生活から遠ざけてしまう原因ともなります。
結局T様はこの事故を境に車いす生活となり、それ以来自宅に戻ることはできなくなりました。T様は手術を経て、近隣の老健(介護老人保健施設)に入所されたと後日報告を受けました。
つまり、私はご本人様とご家族の、それからの人生における大きなターニングポイントに遭遇したことになります。
『もう自宅に帰れない…』
老健探しは難しい?
妻の祖母の話ですが、義理の祖母は最後の1年間、気管カニューレを挿入し、何度も吸痰をしなければいけなかったために特別養護老人ホームでは受け入れ先がなかなか見つからなかったという経験がありました。4つ目の老健に入った後に最期を迎えるまで、義理の父母は次が決まった日からすぐにまた次の老健探しを始めていたことをよく覚えています。
老健はそもそもリハビリと機能(ADL)向上を目指して在宅復帰をするための施設であり、長くても例外を除いて3か月以上の入所はできません。そのため、期限を迎える前に次の施設を探さなくてはいけないのです。
家族にとっては家から近い老健に入所を希望するのは当然ですが、最初は都合よく見つかっても、2つ目、3つ目ともなるとどんどん自宅から離れた老健になってしまうこともあり、義理の祖母のケースがまさしくそれでした。
T様についてはその後どうなったか、詳細はわかりません。ただ、ご本人様とご家族の事を思った時、胸がキュッと締め付けられる思いがしたのを今でもはっきりと覚えています。介護職に就いて3年目に入り、やっと業務が板についてきた感があった頃のことですが、このような体験はこの時が初めてでした。