一般的に低賃金で労働がきついと言われている介護職ですが、実際はどうなのでしょうか?本当に給与が低いのか、ここではわかりやすく介護職の平均給与について紹介と分析をしたいと思います。
1.介護職員の平均給与
1-1:①施設別・事業所別の令和2年度の平均給与
1-2:②平成31年度と比較した給与の増減
1-3:③注意点と表から読み取れる傾向
2.介護職員の平均年収
3.介護職の平均給与のまとめ
介護職員の平均給与
①施設別・事業所別の令和2年度の平均給与
以下は、厚生労働省から出されている令和2年度の『介護従事者処遇状況等調査結果』より、『第87表 介護職員の平均給与額等(月給・常勤の者),サービス種類別,規模別(処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅴ)を取得している事業所)』を抜粋したものです(この記事用に簡略化していますが、実際の表は年代別、平均勤続年数等も掲載されています)。
施設・事業所 | 平均給与額/月 |
---|---|
介護老人福祉施設 | 350,430円 |
介護老人保健施設 | 338,920円 |
介護療養型医療施設 | 306,420円 |
介護医療院 | 312,600円 |
訪問介護事業所 | 306,760円 |
通所介護事業所 | 280,600円 |
通所リハビリテーション事業所 | 305,660円 |
特定施設入居者生活介護事業所 | 322,020円 |
小規模多機能型居宅介護事業所 | 287,980円 |
認知症対応型共同生活介護事業所 | 287,770円 |
上記を平均すると309,916円となります。
ここからおおまかな手取り額を計算すると247,932円となります。
一般的に手取りは、総支給金額の75~85%になると言われています。つまり、おおまかには総支給額に0.75~0.85を掛けた金額がだいたいの手取り額となるため、今回は中央値の0.80を掛けています。
なお、金額に幅があるのは、控除される金額が額面の金額や扶養家族の有無などによって異なる事が理由です。
②平成31年度と比較した給与の増減
次に、介護職の給与がどれくらい増減したかを見たいと思います。
↓の表は、同じく令和2年度の『介護従事者処遇状況等調査結果』より『第87表 介護職員の平均給与額等(月給・常勤の者),サービス種類別,規模別(処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅴ)を取得している事業所)』から、平成31年度(令和元年度)からどれだけ給与が増えたのかを抜粋したものに、この記事執筆時点での前年度からの月額の平均差額と増加率を加えた表です(注:平成31年と令和元年は同一年度)。
施設・事業所 | 差額/月 | 増加率 |
---|---|---|
介護老人福祉施設 | +18,110円 | 5.2%↑ |
介護老人保健施設 | +16,680円 | 4.9%↑ |
介護療養型医療施設(※) | +12,630円 | 4.1%↑ |
介護医療院 | +18,270円 | 5.8%↑ |
訪問介護事業所 | +18,330円 | 6.0%↑ |
通所介護事業所 | +12,030円 | 4.3%↑ |
通所リハビリテーション事業所 | +15,570円 | 5.1%↑ |
特定施設入居者生活介護事業所 | +13,630円 | 4.2%↑ |
小規模多機能型居宅介護事業所 | +12,990円 | 4.5%↑ |
認知症対応型共同生活介護事業所 | +13,850円 | 4.8%↑ |
平均差額/月(平均差額/年) | +15,209円(182,508円) | |
平均増加率/月 | 4.9%↑ |
※介護療養型医療施設は「介護老人保健施設」や「介護医療院」に転換させるなどして、将来的には廃止する方針のため、2012年から新設が認められなくなっています(そういった事情により施設数が減少し、現在では定員のほとんどが埋まっているため入所までには数か月程度の期間が必用です)
注意点と表から読み取れる傾向
まず注意点ですが、事業所における違いとして夜勤の有無や施設・事業所の利用者数が多いか少ないかにより給与に差が出るという前提があります。その差が一番大きく出る例は、一般的に利用者数・職員も多く、夜勤もある介護老人福祉施設や介護老人保健施設と、利用者数が規模によって異なり夜勤の無い通所介護事業所などです。
比較すると、月当たりの給与額には最大で69,830円の差額があります。
つまり傾向として、夜勤もあり身体に負担のかかる職場ほど、かつ利用者数が多い場合ほど給与が高くなる傾向があると言えます。
それでは給与の増加率はどうでしょうか?給与額の増加率は介護医療院で最大の5.2%、一番低い特定施設入居者生活介護事業所(ケアハウス等)4.2%となり、額面の差ほどの開きは無く平均して4.9%増加しています。
事業所により平均給与に20%ほどの開きがある事を考慮すると、給与増加率にはあまり差が無いとも言えますよね?
これ以前のデータも介護職の給与は増加しており、結果として介護職全般としては平均して給与が増額傾向にあると言える結果となります。
介護職員の平均年収
上記の平均月額給与から、介護職の平均収入を割り出してみたいと思います。賞与を抜いた場合の平均年収はおおよそ372万円、手取り額はおおよそ297万円となります。
これに賞与(ボーナス)を足した場合・・・も算出したいのですが、賞与の平均にはやや難があります。
実は私が介護職に就こうとした時、社会福祉法人の特別養護老人ホームと医療法人の老健という二つの選択肢がありました。社会福祉法人の特別養護老人ホームでは大学卒の場合の基本給が180,000円だったのに対し、医療法人の老健ではわずか12万円しかありませんでした。でも、老健の方が夜勤手当諸手当の金額が多く、仮に1ヶ月の夜勤の回数が同じであった場合、給料はほとんど同じだったのです。
(結局私はもろもろの理由で社会福祉法人の特別養護老人ホームを選びました)
賞与は基本的に『基本給×〇ヶ月分』であるため、↑のような例の場合、そもそも基本給に開きがあるためそれを施設や事業所ごとにどのような裁定をしているかで大きく変わってきます。
そのような前提の上で、ここでは比較的待遇の良い私が働いている特別養護老人ホームを例にとると、額面賞与は4.2ヶ月分(夏の賞与2.0ヶ月、冬の賞与2.2ヶ月)であるためそれを基準とし、7~8年ほどの勤務で基本給がちょうど20万円だった場合を算出すると、夏のボーナス40万円、冬のボーナス44万円で合計84万円となり、手取りでは672,000円となります。これをそれぞれ↑の平均年収にプラスすると、
- 平均年収(総所得):456万円
- 平均年収(手取り):364万円
となります。ただ、これはひいき目に見ても多めの金額と言え、中央値をとるともう少し下がると思われます。ざっくりとですが、平均年収は総所得額で400~430万円、手取り額は320~340万円前後となるかと思われます。
介護職の平均給与は高いのか、低いのか?
いかがでしたか?この金額はあなたにとって、あるいはあなたの予想と比べて多いですか、少ないですか?
介護職に実際に就いている者の感想としては、正直微妙なところです。理由はいくつかありますが、まず『低い』と思う理由は
- 給料が実際の労働力に見合わない
- ↑の理由として、十分な職員数が確保できていないため個人の負担が重くなる
- ↑の理由として、職員数が満たない分、思った以上に休みが自由に取りづらい(と思われる)
- 休日祝日関係なく働いているのだから、もう少し配慮してほしい
- 残業時間が付かない
といったところでしょうか。意見はいろいろあると思いますが、次に給与が妥当だと思える理由を挙げます。
介護職に就いている者として是非ご理解いただきたいのは、決して給与が高いわけではなく『思ったより悪くない』というニュアンスであるという事と、最大評価は『妥当だ』にとどまる、というところです(高給取りだ、とは決して言えません)。
- 休みが他の職種より多い
- 残業時間が他職種より少ない(と思われる)
- 働ける場所が多く自分に合った職場を選びやすい(転職がそれなりに容易)
- 介護福祉士の資格は思ったより強い
- 今後の給与アップに期待が持てる(場合がある)
①~⑤に関しては、事業所によりけっこう左右されます。それが、介護職が職場を転々としている理由とも言える『少しでも良い待遇の職場を探し続ける』理由と言えます。ただ、総じて言えばいずれも少なからず当てはまると思います。
ただし給与が高いのか低いのかは、結局は低いと思われる理由の②にある程度集約され、介護職の労働人口が低いことが全ての理由に関係すると思います。
介護職の労働人口が増えれば労働負担が減り、体力的な負担も減ります。残業も減るため、休みの時間も増えることになります。ただ同時に、夜勤のある事業所勤務の場合は労働人数が増えることで夜勤が減り、収入も減ることになるためそれに異を唱える職員も多くなります。これは、介護職の永遠の課題とも言え、それと同時に介護職に就く者としてある程度は受け入れなければならない現実(労働対価という側面で)とも言えるのではないかと思います。
また、介護業界はブラックとホワイトが共存していて、働く場所を間違えるとそれこそ時間と労働の搾取と言わざるを得ない状況で働かされます。現実に介護職に就く者として、こういった状況の改善を強く望みます。
介護職の平均給与のまとめ
↑で紹介した統計結果から見る通り介護職の給与は増え続けており、それは介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算の存在がかなり大きいと言えます。それだけで年間で50万円以上の給与アップがあり、こういった職員に還元される手当が今後増えてくることに期待したいと思います。
ただそれと同時に、介護職に就く人の給与が増えるのと同時に介護を必要とされるかたの負担が大きくなるのもどうかと思います。日本が福祉国家を目指すのであれば、誰もが介護が必要となる将来を抱えているのであれば負担をどちらか一方に押し付ける制度改正ではなく、双方が満足いく制度を樹立してほしいと切に願います。
そして、夜勤ありの介護職ならなおさら、という前提にはなりますが、日本の世帯平均年収のど真ん中であるという事実も忘れてはいけないと思います。それなりにホワイト(ライトグレー以上の事業所?)であれば、日々の生活に困らない給与がもらえます。
私の結論として、一定条件を満たせば介護職員の給与は決して悪くないと思います。